年収は「住むところ」で決まる ─ 雇用とイノベーションの都市経済学

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読みました。 邦訳のタイトルはなんか自己啓発っぽくて胡散臭いんだけど中身は大著。 (英語のタイトルは「New Geography of Jobs」、新しい雇用の地理学的な?) ビジネス書は眠くなって読み進められない性分の私でも、興味深く一気に読みました。

例によって書評は苦手なので、いろいろ引用しながらまとめます。

<浮かぶ都市>の高卒者は、<沈む都市>の大卒者より給料が高い。
これってどういうことかというと、ITの中心地となったシリコンバレー、映画スターが集まるハリウッド、バイオテクノロジー産業の集積地サンディエゴに、マイクロソフトやアマゾン、スターバックスを排したシアトル。
一方、かつて自動車の製造で隆盛を極めたデトロイトなどの都市は過去20年以上にわたり人口流出、失業率が上昇、両者の格差はそのまま平均賃金格差に反映されている。

成長する都市の高卒者の給料は衰退する都市の大卒者の給料よりも高いそうです。

著者は、各都市発展の歴史を追うことで、これらの成長する都市がイノベーション都市へと押し上げた要因を、政策、文化、特許出願件数などの多角的視点から分析しています。

以下、安田 洋祐氏の解説より引用。

本書で頻出するキーワードを三つ挙げるとすれば、アメリカ、イノベーション、シリコンバレー。 アメリカ経済のエンジンであるイノベーション産業が、なぜシリコンバレーのような限られた地域に集積し、それがアメリカ人の暮らしぶりをどのように変えてきたのかを、ミクロとマクロの幅広い視点から分析した大著。

きちんとした学問的な根拠にもとづいていることは、本書の大きな売りである。
実は労働経済学、都市・地域経済学、教育経済学、国際貿易、成長理論などの各分野で実証された膨大な漁の研究成果が反映されている。

著者の分析によると、ハイテク産業で新たに1件の雇用が生まれると、その地域でサービス関連の新規雇用がなんと5件も生み出される。これに対して、伝統的な製造業の場合には、1件の雇用増が生み出す新規雇用は1.6件にすぎない。

例えば、アップルがクパティーノ本社で雇用しているのは1万2000人だが、その雇用はさらなる6万人以上の雇用(アップルの訴訟を扱う弁護士、社員の健康を守る医師、住宅の修理人など)を地域にもたらしています。

ある都市でイノベーション産業の新たな雇用が生まれると、同じ都市で非貿易部門の雇用もつくり出されるのである。科学者やソフトウェアエンジニア、数学者の雇用が増えれば、地域のサービス業に対するニーズが高まる。その結果、タクシー運転手や家政婦、大工、ベビーシッター、美容師、医師、弁護士、犬の散歩人、心理療法士の雇用が増える。 要するに、都市によってイノベーション関連の雇用が1つ増えることは、1人の雇用が生まれる以上の意味があるのだ。

このような雇用の乗数効果は、ハイテク産業でより大きくなるそうです。
これには、2つの理由があって、
1つは、ハイテク産業は給与水準が高いため、高給取りの社員たちがレストランやヨガ教室などの地元サービス業に大きなお金を落としていくこと。より興味深いもう1つの理由は、ハイテク企業は互いに地理的近接地に寄り集まる傾向が強いということである。つまり、ある都市に1つのハイテク企業が誕生すると、将来その都市には新たなハイテク企業が生まれる可能性が高まるのだ。

それでは、イノベーション産業を引き寄せるため、生み出すためにどのような施策が必要となるのか。本書でも様々な提案がなされているが、一度イノベーション産業から見放された都市を好循環の波に乗せることは容易ではなく、意図的な政策でそれを実現したという事例は少ない。
日本の失われた20年をイノベーションの衰退という視点から分析したモレッティ教授の言葉。 「1980年台、日本のハイテク産業は世界の市場を制していたが、この20年ほどで勢いを失ってしまった。とくに、ソフトウェアとインターネット関連ビジネス分野の退潮が目立つ。運命が暗転した理由はいろいろあるが、大きな要因の1つは、アメリカに比べてソフトウェアエンジニアの層が薄かったことだ。アメリカが世界の国々から最高レベルのソフトウェアエンジニアを引き寄せてきたのと異なり、日本では法的・文化的・言語的障壁により、外国からの人的資本の流入が妨げられてきた。その結果、日本はいくつかの成長著しいハイテク産業で世界のトップから滑り落ちてしまった。別の章で述べたように、専門的職種の労働市場の厚みは、その土地のイノベーション産業の運命を決定づける要因の1つなのである。」


人類の歴史上、生産性と生活水準の上昇を力強く牽引してきたのはつねにイノベーションと技術の進歩だった。 私達の物質的幸福は、新しいアイデア、新しいテクノロジー、新しい製品を生み出し続けられるかどうかにかかっているのである。

そんなわけで、名著です。
イノベーション、雇用、都市経済。このあたりにピンと来た方は読んでおくべきと思います!

参考:『年収は「住むところ」で決まる』 プログラマーが多い街にはヨガ教室が多い - HONZ